田中益三
洋泉社から〈別冊歴史REAL〉の一冊として、ムック本『怪物たちの満洲帝国』(2013.11.10発行)が出た。売れ行き良好だと聞く。タイトルはちょっと、おどろおどろしいが本の筋は通っている。巻頭記事のほかに、part1が「満洲国に暗躍した人物たち」、part2が「激動の満洲国13年の軌跡」、part3が「戦後日本を動かした満洲人脈」、それにコラムなどを配している。私はpart1の19名の「人物たち」のうち、13名を担当し、同じpartの他の部分を西原和海氏が担当した。「人物たち」の人選は、こういう類いの本で今までにあまり選ばれない人物を入れることにあった。八木沼丈夫や楊靖宇などがそれである。執筆のポイントは二つで、なぜ、彼らは満洲と関わったかを示すこと、その姿をあくまで等身大で提示することだった。また、事典ふうの記述にしないことも暗黙のうちに了解していた。
巻頭で劇画『虹色のトロツキー』の作者、安彦良和が「現在は、戦後何度目かの満洲ブームといえるかもしれませんが、単純に満洲の記憶を美化するのではなく、頭ごなしにすべてを否定するのでもなく、『動機や志には見るべき部分もあるのだけれど、でもどこかで間違ってしまった』歴史として、しっかり記憶するきっかけとなってほしいですね。」(特別インタビュー「日本人はなぜ満洲に惹かれるのか」)と語り収めているが、私が考えていることと大きく重なっている。私もまた、満洲国というフィクショナルな国のなかで、その迷宮のうちに取り込まれ、今から見れば、「どこかで間違ってしまった」人々の姿を書き留めたいと考えていたからだ。
人物たちのうち、李香蘭と川島芳子は既に『長く黄色い道―満洲・女性・戦後』(せらび書房)で書いたもののリライトであり、「暗躍した」と言うより、「暗躍させられた人物たち」という視点に立っている。経済人・鮎川義介や官僚・岸信介などを颯爽録ふうに書いたが、満洲の影の実力者・甘粕正彦について、敗戦後の満映の動向までを含んで書けたのを喜びとするところだ。
最後にマイナス面を三つ。甘粕―甘粕に満洲で「能吏の時期」があったとしたが、これ何となく、そぐわない。ラストで「武人としての死の理想を貫き通した」というのは、甘粕という「機密文書」的人間を自ら葬ったことも含んでいるが、そういう表現を入れ忘れた。李香蘭―蘭の花について述べるうち、うっかりそれを国花としてしまったが、満洲国の国花は高粱だから間違い。皇室の花とすべきだった。
楊靖宇が揚靖宇となっているのは残念!