田中益三
去年、出したムック本『怪物たちの満洲帝国』が増刷し売れたので、版元さんが、その気になり、第二弾というわけで、また登場。前のタイトルほどは、ドギツクナイけど、漢字が多いタイトルですなあ。
山口淑子が9月3日に亡くなったので、口絵部分は、まずもって李香蘭。「特別インタビュー」は、「フイチン再見!」を連載中の漫画家村上もとか。連載の今後に期待を持たせる。以下の章立ては、Part1が「満洲に君臨した巨大組織『満鉄』」、このコーナーの末尾には、ビジュアル特集「満鉄ポスターギャラリー」が付せられている。順にPart2「Q&A 満洲帝国の実態」、Part3「満洲にうごめいた謎の組織」、Part4「満洲国の文化と人脈」、Part5「知られざる満洲人脈と戦後日本」となっている。
Part1は、天野博之さんが書いた。満鉄会情報センターの専務理事だけあって満鉄に詳しいが、当地で育った少年時代の記憶から、満鉄と社員やその家族の姿を鮮明に浮き上がらせている。天野さんと言えば、数ある満鉄あじあ号もののなかでも、最もシャープな『満鉄特急「あじあ」の誕生』(原書房)の著者だったことを想い出す。かつて、小学館の歴史分野の編集者だったこともあり、目配りが利いた書き振りで巨大コンツェルン満鉄を縦横に描き出すことに成功している。ポスター部分では、伊藤順三が中心。伊藤は満鉄社員で画家。近年、伊藤順三は注目を浴びているが、彼のポスターのシックな魅力をあらためて感じさせる。このビジュアルに接するだけでも、眼福!
Part5は、大蔵省・銀行人脈、音楽家と軍歌、植物画家と切手の製作、スポーツ人脈の戦後へと繋がる系譜、鮎川義介と腹心の部下の奮闘ぶりとヴァラエティーに富んだ内容となっている。いずれも、意外性と発見があって面白い。
今回の企画の推進役は前回と同じ、西原和海氏。各所に健筆を奮っているが、問題の立て方が斬新。また、それに私も前回同様、大いに共振し、振れ幅を伸ばしたつもり。西原氏のアンテナの良さは、特務機関を中心に据え、中国人によって編制された「満洲国軍」、また、警察組織の在り方、プロパガンダ組織としての満映にスポットを当てたPart3で、存分に発揮され、快調な書き振りを示している。そして、こういうムック本のなかに文化と人脈の問題を滑り込ませた、Part4は、まさにお手柄というしかない。
もう、言ってもいいと思うが、問題の立て方が面白く、意外性を含んだ、このムック本は、ずっしりと情報が詰まっているとともに、実験国家満洲に人々が何を望み、何を見、そして、どのように消失を見たかを炙り出している。戦後において、自己再建へと向かった人々の姿も浮き彫りになっている。
さらに、言ってもいいと思うが、このムックは斬新で貴重ゆえ、書店ででも見かけたら、是が否でも買った方が良い。これは保存版となること間違いなし。去年、出したムック以上に、おそらく売れることだろう。私の手前味噌は別として、間違いなく、オススメ・太鼓判の一冊でありますなあ。