Web朱夏　No.8（2015.8.31）

［新刊余録］　

『満映とわたし』（文藝春秋）と『はばたく映画人生』（せらび書房）

田中益三

岸富美子さん待望の自伝が出た。岸さんと石井妙子さんの連名なので、あの『李香蘭　私の半生』（新潮社）の山口淑子・藤原作弥、つまり共同執筆者という、やり方と同じ。小社の本（『はばたく映画人生』）はインタビュー集だが、岸さんにとっては、自伝とインタビューの二つがあることになる。自伝は、満映から東北電影の時期における「精簡」（人員整理）のことが、取り込まれている。インタビュー集には、それがない。それはインタビューの時期（2008～2010）には、岸さんが、「あちこちで精簡のことを言ってきたから、今回は入れたくない」という、お気持ちがあったからだ。自伝には各章ごとに解説が付されているが、予備知識を必要とされる方には重宝だろう。インタビュー集はビジュアル資料を駆使しており、また、自伝とは切り口が違う。「興山～長春で東北電影に参加した旧満映の日本人」「旧満映の日本人による東北電影での仕事」という一覧もインタビュー集に載せている。満映とその後を知る貴重な証言として、併せて読まれるよう期待したい。『はばたく映画人生』は近々、増刷となる。